遊戯王やデュエル・マスターズ(デュエマ)といったトレーディングカードゲームを遊んだことのある人であれば、誰でもレアカードへの憧れを一度は抱いたことがあるだろう。たとえ他人や両親から「紙切れだ」と言われても、その価値を知っているものの間では時に並外れた値段がつくカードも生まれる。
そんなトレーディングカード市場で、今ポケモンカードへの関心が高まっている。ポケモンカードは、今年で発売から25周年となる古株で、2000年代に発生したトレーディングカードブームの先駆けとなっていた存在だ。
しかし、トレーディングカードブームの主役といえば、冒頭でも挙げた遊戯王とデュエマの二強であった。当時小学生であった筆者の身の回りでも、遊戯王とデュエマを掛け持ちする動きこそあれど、ポケモンカードを集めている友達はほとんどいなかった。これまでのポケモンカードはプレイ人口などの観点で、誰かと対戦して遊ぶというよりもコレクションして自身の範ちゅうで楽しむという要素が強かったように思われる。
そんなポケモンカードだが、コロナ前の19年から20年にかけて復活の予兆が現れ始め、21年にはその熱狂がさらに先鋭化しているという。中には、純粋なファンだけではなく「ポケカ投資家」といった、ポケモンカードのトレーディングを専門とする者も参入しているという。
●ポケモンカードの熱狂
ポケモンカードの復活を象徴する出来事が、20年7月に発売されたポケモンカードゲームの「Vスタートデッキ」の爆売れである。この商品は初週で50万セットが販売され、ポケモンカードの構築済みデッキとしては史上最速の売れ行きを示した。
Vスタートデッキとは、どのパックにも同じカードが封入されている構築済みデッキで、ランダムでレアカードが封入されているブースターパックとは異なる。構築済みデッキは主にビギナーを対象とした商品で、慣れてきたらブースターパックを購入し、オリジナルのデッキにカスタマイズするという遊び方が一般的である。そのため構築済みデッキ売れ行きのとプレイ人口の拡大・縮小には程度の相関がある。
ひとたびプレイ人口に広がりが生まれると、その流行に乗り切れていない人々は不安を感じるようになるものだ。私たちは、何かを買うときに自分の意思で購入したと考えているかもしれないが、その決定の背景には他者の影響によって決定されたものである場合も少なくない。日本の映画売上記録を塗り替えたことが象徴的な「鬼滅の刃ブーム」も、ミクロの観点では友人のSNSの投稿や会話・マクロの視点ではマスメディアなどの取り上げによって指数関数的に加速していった。
このように消費の選択が、他者の影響を受けることを行動経済学上では「消費の外部性」という。そして、その流行に乗り切れていない不安を払拭するために流行のものに飛びつきたいと思う効果を、楽器隊に群がる子供たちの例にたとえてバンドワゴン効果という。そんなバンドワゴンにはたびたび”招かれざる客”も呼び寄せてしまうことがある。それが、いわゆる転売ヤーや、利益を生み出す投機商品とみなす人々だ。
彼らはレアカードをお気に入りのカードとしてではなく、売買益が期待できそうなカードとみなす。人気が高まりそうなカードを安値で購入しておき、タイミングをみて買値よりも高く売り抜けるようなものもいれば、ポケモンカード投資の方法を有料の教材にまとめて販売するという動きにもつながっている。
“ポケモン”カードではあるが、安定して高い値段となっているのはポケモントレーナーのカードだ。トレーディングカードゲームといえばモンスターや魔物のイラストが多いが、ポケモンカードでは、人気のトレーナーも活躍させられる点で独自のポジションを取っているといえるだろう。
トレーディングカードを作るメーカーは、たびたび「造幣局」にたとえらることがある。紙にイラストを印刷するだけで市場で価値を持つようになるのは、確かに紙幣の特徴だ。カードがお金としての側面を持ち、市場原理によって価格が変動するのであれば、確かにトレーディングカードは投資商品たりえるという意見も捨て置けるものではない。現に、ポケモンカードのトレードを専門にするポケカ投資家は、レアカードを「安く買って高く売る」ことで利ざやを稼いでいる。
さらに、そのようなポケカ投資家をサポートする“投資ツール”を提供するWebサイトもある。そのサイトはポケモンカードの種類ごとの価格変動を日時でグラフ形式に記しており、その見た目はさながら株価チャートを彷彿(ほうふつ)とさせる。
しかし、長期的な観点で、トレーディングカードを投資商品とみなすのは難しい。それは、次のような不確定事項があるからだ。
最大の要因は、ポケモンカードが値上がりしても、その値上がり益はポケモンカードのメーカーに還元されない点だ。通常、会社の株式などであれば、株価が上昇すれば自社の時価総額も上昇し、自社株の評価額も上がる。しかし、トレーディングカード売買はセカンダリ市場、つまりメーカーの介在しない中古のマーケットで行われるため、メーカーは利益を得られない。
さらに、レアカードが中古市場で買えるとすれば、ランダム性の高いブースターパックよりも他の人から買った方がトータルの支出を抑えて目当てのカードを購入できる可能性が高い。したがって、ポケモンカードの値上がりはメーカーにとってプラスとなるどころか、パックの売り上げを落としかねないマイナス要因となる。
そして、ポケモンカードは他の金融商品と異なり、供給量に制限がないことも投資商品とみなすことを難しくさせる。会社の株式には発行可能上限株数という概念があり、その会社が発行できる株数に上限がある。私たちが持っている日本円やドルといった通貨も、中央銀行の金融政策によって発行数量がコントロールされており、無制限に発行することはできない。
一方でカードは、需要があればそれを飲み込むだけの供給が十分に可能という性質がある。もし伝統工芸品やロボットなどのように生産にかかるコストや期間が長ければ、需要の増加に供給が追いつけなくなる可能性が高いが、とりわけトレーディングカードの量産にはそれほどの手間や時間はかからない。したがって、爆発的な需要上昇で一時的に価格がゆがむことはあれど、中長期的に値上がり傾向を維持するのは難しいということになる。メーカーとしても、流通が滞れば中古市場での売買が活発になるため、供給量をあえて制限する理由もないわけだ。
(古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士)
(出典 news.nicovideo.jp)
ポケモンカードと呼ばれる、『ポケットモンスター(ポケモン)』を題材にしたカードは複数存在する。 ポケモンカードゲームシリーズ - 株式会社ポケモン(以前はメディアファクトリーより発売)のトレーディングカードゲーム。単に「ポケカ」と呼ぶ場合はこちらを指すことが多い。 ポケモンずかんカードシリーズ - 1キロバイト (141 語) - 2021年3月26日 (金) 12:02 |
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