仕事中に眠気を感じたとき、コーヒーを「眠気覚まし」として飲んでもいいのだろうか。医療ジャーナリストの市川衛さんは「確かに眠気は減り、単純な作業であれば効率が上がることを示すデータがある。ただし、一方で、頭を使うような複雑な作業の効率は下がり、ミスが多くなるという結果もある」という――。

■カフェインと作業効率の関係についての研究が発表された

こんなとき、あなたならどうしますか?

仕事の締め切りが明日に迫っている。作業を続けているうち、いつのまにか深夜2時。眠気はピークに達し、ふとした瞬間に意識を失いそうになる。PCモニターの文字を目で追っても、頭の中で上滑りするばかり。頭をしゃっきりさせるために、何かしなければ!
A.濃いめのコーヒーエナジードリンクなどで眠気を覚ます
B.取りあえず寝て朝から働く

いかがでしょう? 働き方改革が叫ばれる中、最近では「ムリせず寝る」という答えが主流かもしれません。とはいえ正直なところ、急ぎの仕事ではそう言ってもいられないこともありますよね。

それより、コーヒーエナジードリンクに含まれるカフェインの助けで眠気を覚まし、少し無理をしてでも最後まで終わらせたほうがよさそうな気もします。

いったい、どちらが良いのか? 意外と悩ましいこの問いを調べた研究の結果がこの5月、発表されました。

研究を行ったのは、米ミシガン州立大学心理学部の研究グループ。実験の参加者は累計276人にのぼる大規模な実験です。

参加者はまず、ある日の夕方に研究室を訪ねるように指示され、2つのテストを受けました。ひとつは「画面に数字が表示されたら、できるだけ早くボタンを押す」というような単純なテスト。もう一つは、画面に次々と数字や文字が表示され、「アルファベットに下線が引かれていたらそれを報告する」「赤い色の数字が右に表示されていたら色を、左に表示されたら数字を報告する」というような複雑な判断を必要とするテストです。

■4つのグループに分けて実験

テストを受けた後、参加者は2つのグループに分けられました。1つのグループは、そのまま研究室に残り、徹夜します。もう1つのグループは、家に戻っていつも通り睡眠をとります。

その翌朝、参加者たちはまた研究室に集められ、実験用のカプセルを渡され、飲むように言われました。半分のカプセルにはレギュラーコーヒー2杯分ほどのカフェインが入っており、もう半分には入っていません。つまり参加者は、自分がカフェイン入りのものを飲んだのか、そうでないかは分からないことになります。「自分はカフェインを飲んだのだから、作業ができるはずだ」という思い込みによる影響(プラセボ効果)が起きないようにするためです。

つまり276人は下記の4グループに分けられたことになります。

①徹夜してカフェインをとらなかった人
②徹夜してカフェインをとった人
③睡眠をとってカフェインをとらなかった人
④睡眠をとってカフェインをとった人

飲料を飲んだのち、参加者は全員、改めて先ほど紹介した2つのテストを受けました。こうしてグループそれぞれの成績を比較することで、睡眠不足カフェインの影響を調べたわけです。

結果はどうだったか。

■単純な作業は成績向上、複雑な作業は成績低下

まず①の「徹夜してカフェインをとらなかった」グループです。当然と言えば当然ですが、単純なテストも複雑なテストも徹夜後は正答率が下がりました。もちろん睡眠を十分にとった③や④と比較した場合でも、悪い成績でした。

気になる②の「徹夜してカフェインをとった」グループはどうだったか? 実は面白いことに、単純なテストと複雑なテストで違う傾向が見られました。

単純なテストについては、前日と比べても成績は落ちず、③・④並みのスコアを叩きだしました。カフェインをとったことで、睡眠不足の影響をカバーすることができたわけです。しかし一方、複雑なテストのほうは前日と比べ成績ダウン。①の「徹夜してカフェインをとらなかった」グループとそれほど変わらないところまで悪くなってしまったのです。

カフェインは、単純な仕事においては睡眠不足の影響を補える。しかし頭を使わなければできない複雑な仕事の影響をカバーすることはできない」ということがわかりました。

■カフェインの効果と使うべきタイミングは

なぜ、このようなことが起きたのでしょうか。それを理解するために、まず「なぜ眠い時にコーヒーを飲むと、眠気が覚めるのか」について考えてみます。

起きている時、脳の神経細胞は活発に働きます。すると活動の副産物として「アデノシン」という物質ができます。脳には、このアデノシンの量を調べるセンサー(アデノシン受容体)があり、アデノシンが増えてくると活動にブレーキをかけます。このときに感じるのが、いわゆる「眠気」という感覚です。脳の働きすぎを監視し、休息をとれるように促すシステムが、私たちの体には備わっているわけです。

コーヒーなどに含まれるカフェインは、アデノシンと似た形をしています。そのため、アデノシンの量を調べるセンサーにくっつくことができます。カフェインがくっつくと、センサーはアデノシンの量を量れなくなります。その結果、脳にかかっていたブレーキが緩み活動が活性化。そのうえ眠気もとれる、というわけです。

「おお、素晴らしいじゃないか!」と思ってしまいそうですが、ちょっと考えればわかる通り、脳は「自分が働きすぎているかどうか」を認識できなくなっているだけで、働きすぎている状態は変わりません。脳のパフォーマンスは、休息十分な時と比べれば落ちているので、単純な作業はできるようになっても、複雑な作業ではミスを犯しやすくなります。ミシガン大学の研究結果は、このような状態のあらわれであったと考えられます。

■効果があるからこそ怖い「過信」のリスク

「でも単純な作業であれば、カフェインをとれば良いってことよね?」と思われた方がいるかもしれません。でも、この研究を行ったミシガン州立大学心理学部のキンバリー・フェン准教授によれば、その考えこそが危ないのだそうです。

カフェインは、眠気を減らして気分を改善させてくれます。しかし睡眠不足が解消されたように感じても、より複雑な仕事のパフォーマンスは低下してしまうのです。これが、睡眠不足が非常に危険である理由の1つです」

先ほどお伝えしたように、カフェインは脳が自分の働きすぎを監視するシステムを狂わせます。眠気がおさまり、自覚的には、通常と比べて変わらぬ仕事ができるように感じさせてくれます。でも、もしかすると脳のパフォーマンスが思った以上に落ちていて、自分では「単純作業」と思っているような内容でさえミスを犯しやすくなっているのに、気が付けなくなっているかもしれないのです。長距離バスの運転手や、緊急手術を担当する医師などの職業の人がこのような状況にあったら、命に関わる事故の原因にもなりかねません。

また最近の研究では、別の問題も見えてきています。従来、睡眠は「脳の休息」という意味しかないと思われていましたが、もっとさまざまな役目を持っていることが分かってきました。例えば、脳の神経細胞に蓄積したゴミを掃除したり、複雑になりすぎてしまった神経細胞のネットワークを刈り込んで、より効率よく活動ができるようにしたりすることです。睡眠は単なる休息ではなく、よりよく活動ができるよう脳をメンテナンスする役割があることが分かってきたのです。それゆえ、睡眠不足カフェインで紛らわせることは、1~2日なら良いかもしれませんが、それが長く続くと悪い影響がより強く出てきてしまうかもしれません。

■複雑な作業なら取りあえず寝るのが正解

この研究結果を踏まえて冒頭の問いに答えるとすれば、次のような内容になります。

「もし、ごく単純な作業をするのであれば、カフェインをとって眠気をさまして終わらせてしまうという選択肢もあるかもしれません。ただミスが許されないような複雑な作業であれば、取りあえず寝て、明日の朝からすることをオススメします。なお単純な作業だとしても、数日にわたって睡眠不足が続くようだと、カフェインの助けを借りても十分にできなくなるかもしれません」

睡眠不足カフェインの関係について、見えてきた新しい知見。良かったら日々の生活に、生かしてみてくださいね

1)睡眠不足の際に、コーヒーなどカフェインを含むものをとると、眠気は減り、単純な作業であれば効率が上がる。
2)一方で、頭を使うような複雑な作業の効率は下がり、ミスが多くなる。
3)睡眠不足の状態が続くと、その影響は蓄積し、脳のパフォーマンスは下がり続ける。

参考資料
Caffeine selectively mitigates cognitive deficits caused by sleep deprivation
Michelle E Stepan et al. J Exp Psychol Learn Mem Cogn. 2021 May 20
Study:Don’tcountoncaffeinetofightsleepdeprivation
MSU TODAY May 26, 2021

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市川 衛いちかわ・まもる)
医療ジャーナリスト
広島大学医学部客員准教授、メディカルジャーナリズム勉強会代表。2000年東京大学医学部卒業後、医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年、スタンフォード大学客員研究員。NHKスペシャルで「腰痛 治療革命」「医療ビッグデータ」を手がける。著書に『脳がよみがえる・脳卒中リハビリ革命』(主婦と生活社)、『誤解だらけの認知症』(技術評論社)がある。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/s-cphoto


(出典 news.nicovideo.jp)

カフェイン(英: caffeine)は、アルカロイドの1種であり、プリン環を持ったキサンチンと類似した構造を持った有機化合物の1つとしても知られる。ヒトなどに対して興奮作用を持ち、世界で最も広く使われている精神刺激薬である。カフェインは、アデノシン受容体に拮抗することによって覚醒作用、解熱鎮痛作用、強心作用、利尿作用を示す。
61キロバイト (7,566 語) - 2021年8月12日 (木) 10:15


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